函館地方裁判所 昭和23年(ワ)114号 判決
原告 工藤藏己
被告 河端清太
一、主 文
被告は原告に対し別紙目録記載物件を引渡し昭和二十三年一月二十一日以降右引渡し済みに至るまで一ケ月金一万五千円の割合に依る金員を支拂うべし。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告に於て金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め其の請求原因として原告は昭和二十二年六月中訴外武部豊造に対し原告所有の別紙目録<省略>記載物件を賃料一ケ月金一万五千円賃貸期間同月より同年十二月末日までの定めで貸し渡したところ、被告が昭和二十三年一月二十日原告の所有船舶なることを知りながら之を訴外武部豊造より引渡しを受け船名を太洋丸と塗り替え千葉縣方面に持ち去り使用中であるから右物件の所有権に基き之が引渡し及び被告が武部豊造より引渡しを受けた昭和二十三年一月二十日の翌日である同月二十一日以降右引渡し済みまで一ケ月の賃料相当の金一万五千円の割合に依る損害金の支拂ひを求める爲本訴請求に及ぶ旨を陳述し被告の抗弁事実を否認し被告の即時取得の抗弁に対して被告が右船舶を訴外武部豊造から引渡しを受けた際船舶の所有者使用者が必ず保持すべき船鑑札及び漁船登録票がなかつたのにかかわらず、之が存否を確めずそのまま引渡しを受け漁船登録規則違反(同規則第四條、第十三條)を犯したもので此の点に於て被告が船の眞の所有者につき調査を怠つた過失ありと云ふべく右抗弁は失当であると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め被告が原告主張の日に本件船舶を訴外武部豊造より引渡しを受け使用し居ることは之を認めるも其の余の原告主張事実は之を否認する。被告は昭和二十二年十二月十二日訴外武部豊造より返還を受くべき干鯣十五万枚塩鱈三千貫の前渡金中八万円、同日清幸丸の四十馬力発動機並びにその附属品の賣却代金二十万円計二十八万円の支拂ひにかえて発動機船千惠丸を代金十三万円漁網三ケ統分建揚網三枚を金十五万円計二十八万円と見積り代物弁済として受領し正当に右物件の所有権を取得したのである。仮りに右訴外武部豊造に別紙目録物件に対する所有権なかりしとするも被告が右取得当時平穏公然善意無過失であつたから民法第百九十二條に因り千惠丸の所有権を取得した旨を述べた。<立証省略>
三、理 由
成立に爭なき甲第一号証、原告本人訊問の結果により眞正に成立したものと認める甲第二号証及び原告本人訊問の結果を綜合すれば原告が昭和二十二年二月中旬訴外新谷某より別紙目録記載船舶及びその附属道具マニラロープ九百五十間並びに網二ケ統を代金十五万円にて買ひ受けてこれ等の所有権を取得し同年六月三十日訴外武部豊造に対し別紙目録記載物件を賃料一ケ月金一万五千円賃貸期間同月より同年十二月末日までの約旨で貸し渡したことが認められる。右認定に反する証人浜亀雄、同宇留間勝夫の各証言被告本人訊問の結果は当裁判所は信用しない。右認定に副はざる乙各号証は甲第一、二号証と対比して措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠がない。從つて他に特別の事情の主張及び立証なき本件に於ては原告が昭和二十二年二月中旬以降別紙目録物件の所有を継続し同年六月三十日より同年末まで訴外武部豊造に賃貸しありたるものと認むべきを以て被告が同年十二月十二日頃同訴外人より被告主張の代物弁済により右物件の所有権を承継取得するに由なきものである。
次に被告の即時取得の抗弁につき審究するに証人浜亀雄の証言被告本人訊問の結果(孰れも前記措信しない部分を除く)を綜合すれば被告が昭和二十二年二、三月頃訴外武部豊造に対し金二十万円を貸與しその後その回收のため同年六、七月頃清幸丸の代物弁済につき同年十月始め頃漁業の共同経営につき、同年同月末頃昭和丸の買付けにつき、其の頃更に清幸丸の発動機の修繕につき順次契約を結び孰れも同人より誠実に債務の履行を受けたることなく却つて同人に飜弄され欺罔されていたことが認められる。而して漁船登録規則によれば漁船の所有者又は使用者は漁船登録票を漁船内に保持しなければ犯罪を構成すること明かであるから前記認定の如き不誠実なる武部豊造との漁船取引に当りては相手方の言葉を軽信することなく漁船の所有者の何人なりやにつき船鑑札、漁船登録票の存否を確かめる等細心の注意を用いて取引する義務あること勿論である。然るに証人浜亀雄の証言、被告本人訊問の結果(孰れも前記措信せざる部分を除く)を綜合すれば昭和二十二年十二月十二日被告が予て訴外武部豊造に貸與した二十万円中の八万円及び被告が同訴外人に賣却した四十馬力発動機とその附属品の賣却代金の支拂ひに代えて別紙目録物件を代金十三万円漁網三ケ統分建揚網三枚を代金十五万円計二十八万円に見積り代物弁済することを約し別紙目録物件の引渡しを受けたが被告は右取引に当り同訴外人の從來の不誠実なる取引を顧慮することなくその言葉を軽信し千惠丸の船鑑札及び漁船登録票の存否等同船の眞の所有者の調査を怠り慢然取引されたこと、即ち被告が漁船取引に当り通常用ふべき注意を怠つたことが明瞭に窺知される。被告提出の全立証によるも右認定を左右する証拠がない。故に被告の別紙目録物件の取得につき過失あること明白であるから本件に於ては被告の右抗弁は採用することができない。從つて別紙目録記載物件は原告の所有に属する。然らば被告は原告に対し本件船舶を引渡す義務があり、且つ被告が訴外武部豊造より引渡しを受けた年月日が昭和二十三年一月二十日であることは当事者間に爭いないところであるから其の翌日である同年一月二十一日以降右物件引渡済に至るまで被告が右船舶を何等の権限なく使用して原告をして前記認定賃料一ケ月金一万五千円の割合による損害を蒙むらしめて居るのであるから之を賠償する義務がある。よつて原告の請求は之を正当として認容し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條仮執行の宣言につき同法第百九十六條を適用し主文通り判決する。
(裁判官 川島普 森松万英 齋川貞造)